イントロダクション

浪曲師の独特の唸り声、エモーショナルな節回し、キレのよい啖呵。曲師の三味線とのスリリングなインタープレイが、初めて見る者の心をたちまち鷲づかみにする。平成生まれの浪曲師や曲師が育ち、女性の演者が増えた。浅草木馬亭の客席は昔ながらの愛好者と新たなファンが入り混じり、新時代の到来を予感させる。

主人公は、そんな浪曲の世界に飛び込んだ港家小そめ。伝説の芸豪・港家小柳に惚れ込み弟子入りした小そめが、晴れて名披露目興行の日を迎えるまでの物語だ。映画のもう一つの主役というべきは関東唯一の浪曲の常打ち小屋である木馬亭。舞台裏では、さまざまな人生が交錯し、ベテランから若手へと芸が継承されていく。

製作・撮影・監督は、川上アチカ。小そめと同じく小柳の虜になった川上は8年の歳月をかけて本作を完成させた。親密なキャメラは、小柳と曲師の玉川祐子、そして小そめが大切な何かを育んでいく様子を克明に写す。もちろん、迫力満点の口演場面も大きな見どころだ。玉川奈々福、玉川太福など、当代きってのスターたちも顔を覗かせ、たっぷりと楽しめるドキュメンタリー。

近年、たしかな盛り上がりを見せる寄席演芸の世界。落語、講談だけではない。いま浪曲が、熱い―――。

コメント

敬称略、順不同
  • 師と仰ぐ人に出会い、学び、叱られ、可愛がられ、時として誰かの役に立ち、新たな門出に立ったときに祝福される。
    これはなんと幸せなことだろう。
    人の営みの中で継承されてきた芸をまるごと受け止める若き浪曲師の姿に、何度も胸が熱くなった。
    岨手由貴子(映画監督)
  • 何度も何度もこすれてできた、一節のたこ。街に、生活に、芸に、それがある。
    たこに人は集う。行き交う足跡が、またたこになる。一代で終わらない、憧れの痕。
    この空は明るくも、暗くもない。ただただ、うまくなりたい。
    折坂悠太(シンガーソングライター)
  • 浪曲師たちのパワフルな愛情!
    いっしょくたになった人と芸と生活が、
    いまを生きる浪曲の魅力を伝えてくれる。
    九龍ジョー(ライター/『伝統芸能の革命児たち』著者)
  • なんて美しくて誠実な映画だろうか。過剰な演出は一切なく、カメラは語るものをひたすら見つめ、耳を澄ませ続ける。そこで映し出されるのは港家小柳や玉川祐子らの名人芸だけではない。彼らを支える弟子や関係者の思い。何気ない日常と、その終わり。芸能が暮らしの延長にあり、人生と共にあることを実感させられる。なかでも港家小そめの名披露目興行の場面は、芸能をテーマとする近年のドキュメンタリー作品でも屈指の名シーンではないだろうか。大切な人に無性に会いたくなり、酒を酌み交わしたくなる、そんな愛すべき映画である。 途方に暮れるような時間と労力をかけてこんな傑作を作り上げた川上監督に乾杯!
    大石始(文筆家)
  • 人間の情念をストレートに語ってみせる浪曲。さらにその浪曲を生み出す“浪曲師・曲師のパトスを描く映画”である。 港家小柳が途中で舞台を降りる場面から、小そめの名披露目までの展開は、まさに映画自身が浪曲をうなっているようである。
    釈徹宗(相愛大学学長・宗教学者・僧侶)
  • 呆れるほど不器用で、涙が出るほど人懐こくて、温かい。それが浪曲だ。筋金入りの旅芸人だった港家小柳、百歳でなお現役の玉川祐子。二人が体現する浪曲の精神が愛弟子に受け継がれるさまに、震えるような感動を覚えた。
    杉江松恋
    (書評家/『浪曲は蘇る』
    『100歳で現役! 女性曲師の波瀾万丈人生』(共)著者)
  • ともに過ごした時間より、とても近くに居るという距離をカメラは掬い取っていた。
    師匠と小そめさんが並んで歩く後ろ姿、背中に添える手が、稽古だけではない継承の営みを、その尊さを描いていた。
    受け継いだ人の中に生き続ける記憶もまた、同じ近さで、その人を支えていくのだと教えてくれる。
    小森はるか(映像作家)
  • ほとばしる人情、熱いLOVE。スクリーンのなかの人々が、時代の荒波をくぐり抜けながら浪曲がしぶとく生き続ける理由を描き尽くす。耳から耳へ、声から声へ、魂から魂へ。日本の芸能の宝、浪曲の核心に迫るドキュメンタリーだ。
    平松洋子(作家、エッセイスト)

staff

監督メッセージ&プロフィール

映画が完成したとき、この映画そのものが浪曲で語られる人情物語の一席のようだと気づいた。昭和初期の最盛期に比べれば、いま浪曲は下火だという。けれど、寄席の中ばかりでなく、街や生活に浪曲はあって、人知れず絶唱し、赤々と燃えている。容赦なく流れていく時間の中で、いつ途切れるともわからないその声に耳を傾けたら、愛の投げ合いの物語が聞こえた。人間を少し好きになれた。
(猫はもっと好きになった。)

監督 川上アチカ
(かわかみ・あちか)

1978年、横浜生まれ。横浜市立大学卒業。初監督作、日系アメリカ人の強制収容経験を題材にした『Pilgrimage』で「キリンアートアワード2001」準優秀賞を受賞(※川上紀子名義)。以来、フリーの映像作家としてドキュメンタリー、音楽家とのコラボレーション、ウェブCM、映画メイキング等、幅広く制作。戦争を生き残った祖父を一人きりで死なせてしまった後悔から、2004年より6年間、舞踏家大野一雄氏の最晩年に病床でカメラを回し命を見つめる稽古を受ける。その後、浪曲や河内音頭の芸能者を記録した短編ドキュメンタリー『港家小柳IN-TUNE』(15)、『鈴の音のする男』(16)、『河内の語り屋』(18)を発表。本作『絶唱浪曲ストーリー』は初の長編ドキュメンタリー映画となる。監督業の一方で、プロデューサーとしての活動も行い、共同プロデューサーとして日台合作映画ワン・イエミン監督『闘茶』(08)、アソシエイトプロデューサーとして篠原哲雄監督『クリアネス』(08)に参加。また、2017年と2018 年にはフランス人映画監督ヴィンセント・ムーンの日本ツアーをプロデュースしている。

スタッフプロフィール

  • 編集/アソシエイト・プロデューサー
    秦岳志(はた・たけし)

    1973年東京都生まれ。大学在学中よりミニシアター「BOX東中野」スタッフとして劇場運営に関わりつつ同事務所でテレビ番組、映画予告編制作を始める。99年よりフリーランスとなり、ドキュメンタリー映画の編集、プロデュースを中心に活動。主な長編映画作品に、佐藤真監督『花子』(01)、『阿賀の記憶』(04)、『エドワード・サイード OUT OF PLACE』(05)、小林茂監督『チョコラ!』(08)、『風の波紋』(15)、真鍋俊永監督『みんなの学校』(14/編集協力)、小森はるか監督『息の跡』(16)、戸田ひかる監督『愛と法』(17)、『マイ・ラブ:6つの愛の物語 日本篇 絹子と春平』(21)、原一男監督『ニッポン国VS泉南石綿村』(17)、『水俣曼荼羅』(20)、島田隆一監督『春を告げる町』(19)、日向史有監督『東京クルド』(21)、國友勇吾監督『帆花』(21)、黒部俊介監督『日本原 牛と人の大地』(22)など。
  • 整音
    川上拓也(かわかみ・たくや)

    映画美学校修了後、フリーの録音・編集として活動。録音担当作に小林茂監督『風の波紋』(16)、福間健二『パラダイス・ロスト』(19)、戸田ひかる監督『マイ・ラブ:6つの愛の物語 日本篇 絹子と春平』(21)、西原孝至監督『百年と希望』(22)、石原海監督『重力の光:祈りの記録篇』(22)など。整音担当作に小森はるか監督『息の跡』(16)、島田隆一監督『春を告げる町』(19)、松林要樹監督『オキナワ サントス』(20)、國友勇吾監督『帆花』(21)、黒部俊介監督『日本原 牛と人の大地』(22)、島田隆一監督『二十歳の息子』(22)など。編集担当作に酒井充子監督『台湾萬歳』(17)、ラウラ・リヴェラーニ&空音央監督『アイヌ・ネノアン・アイヌ』(21)などがある。
  • アソシエイト・プロデューサー
    藤岡朝子(ふじおか・あさこ)

    1993年より山形国際ドキュメンタリー映画祭スタッフ。「アジア千波万波」プログラムのコーディネーター、東京事務局ディレクターを務め、現在、認定NPO法人山形国際ドキュメンタリー映画祭理事、国際アドバイザー。2008年にドキュメンタリー・ドリームセンターを設立、ドキュメンタリー映画を通した独自の国際交流活動を続け、フォン・イェン監督『長江にいきる 秉愛の物語』(09)、ソーラヴ・サーランギ監督『ビラルの世界』(11)を配給。09年よりアジア各地で映像制作者の合宿型ワークショップを主宰し、18年より山形県の温泉地にアジアの映像作家が長期滞在するアーティスト・イン・レジデンス「山形ドキュメンタリー道場」をスタート。日本映画の海外展開、国際交流を通じたドキュメンタリー映画の製作、上映支援を目指す。奥谷洋一郎監督『ヌード・アット・ハート』(21)等のプロデュースも手がける。
  • アソシエイト・プロデューサー
    矢田部吉彦(やたべ・よしひこ)

    2000年より映画配給と宣伝を手がける一方、ドキュメンタリー映画のプロデュースおよびフランス映画祭の運営に携わる。02年から東京国際映画祭に在籍し、日本映画部門やコンペティション部門などの作品選定ディレクターを務めた。21年4月よりフリーランス。22年3月にはウクライナ映画人支援上映会を企画するなど、上映企画のプロデュースを手掛ける。カルロヴィ・ヴァリ映画祭、シドニー映画祭、アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭等でコンペティション部門の審査員を務めている。22年より東京ドキュメンタリー映画祭顧問。プロデュース作品に佐藤真監督『阿賀の記憶』(04)、小林茂監督『チョコラ!』(09)、『風の波紋』(15)など。

劇場情報

7/1土より[東京]ユーロスペースほか全国順次公開
2023年5月26日現在

劇場イベント情報


準備中です

北海道・東北

関東

地域 劇場 電話番号 公開日
東京都渋谷区 ユーロスペース 03-3461-0211 7月1日(土)~
備考
神奈川県横浜市 横浜シネマリン 045-341-3180 8月5日(土)~
備考
神奈川県川崎市 川崎市アートセンター 044-955-0107 近日公開
備考:月曜休映

中部

地域 劇場 電話番号 公開日
愛知県名古屋市 シネマスコーレ 052-452-6036 7月~
備考
長野県長野市 長野相生座・ロキシー 026-232-3016 近日公開
備考
新潟県新潟市 シネ・ウインド 025-243-5530 近日公開
備考

近畿

地域 劇場 電話番号 公開日
大阪府大阪市 第七藝術劇場 06-6302-2073 7月8日(土)~
備考
京都府京都市 京都シネマ 075-353-4723 7月7日(金)~
備考
兵庫県神戸市 元町映画館 078-366-2636 近日公開
備考

中国・四国

地域 劇場 電話番号 公開日
広島県広島市 横川シネマ 082-231-1001 近日公開
備考

九州・沖縄

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